
その桜は、私の記憶のある限り、毎年春を告げていた。かれこれ20年。私よりも長くこの街に暮らしている人や年上の人たちにとっては、もっと長い年月を共にした思い入れ深き桜に違いありません。今日、大きくふくらんだ蕾の中に、一つだけ咲いているのを見つけました。いつにも増して、ひときわ健気で儚くて…美しく思えます。
誰もが心を亡くしそうな都会の真ん中で、春を運び、みんなに潤いを与えてきた桜。それがバッサリと切り詰められてしまいました。いつ頃からなのか、具合が悪くなってしまったのです。どうやら回復の見込みがないのか、いよいよ処分されることが決まったという話がささやかれています。今,区が新しく植え替える樹を探しているとか。不調の原因は、近くに出来たビルらしい。レストランやショッピングモールが入ったビル。駅と連結しているので、近隣住民たちは少なからず便利に利用していました。ところがそのビルのせいで水はけが悪くなり、土壌の環境も変ってしまいました。そんな事とはつゆ知らず、私もただビルの便利さを喜んでいました。今、多くの人が桜の現状に胸を痛めています。もうじき引き抜かれてしまうのでしょうか。でも、どんなに胸を痛めたところで、その後もビルを利用し続けるのでしょうね。もちろん、私も…。澄み渡った空の青さが辛いです。