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Ms. ドライバーへ、

 8月20日。
 移動のほとんどは徒歩、或いは電車を利用しています。きっと速度がちょうど良いのかもしれません。移り変わってゆく景色を味わってから飲み込むことを許される速度。それ故でしょうか、たまに違うスピードに乗ると、なんだか世界が少し違った角度で見えてくるような気がします。

 先日、定年退職をしてから2種免許を取得して、日々クルマを走らせているという女性のタクシー運転手と出会いました。それだけでも感心してしまうのですが、何よりも彼女のまっすぐな眼差しが麗しかった。目の前に広がる何本ものルートの中から、最善だと思う道を選んだら、それを信じて進んでゆくような目。
 穏やかな老後を夢見て頑張ってきたのに、運命は彼女から家族を奪ってしまった。ほんのわずかな時間で、何を知ることもできないけれど、真っ白な手袋の中から、きちんと被った帽子の中から、少しくたびれた肩から…彼女のあちこちから、まるで蒸気のように立ちのぼる哀しみ。しかしその蒸気は悲観の涙に結晶するでもなく、或いはすでに乾ききってしまったのかもしれないけれど、新しいカタチの強さとなって漂っていました。少なくともどこにも負を見つけることができませんでした。
 世間話とも身の上話ともつかないような、つたない言葉のやりとりをしてるうちに目的地に到着。運転手としても実にプロフェッショナルで、私はなんと清々しい気持ちにさせてもらったことか。職業へのプライド。自分自身であることへのプライド。見事なハンドルさばきで渋滞を切り抜け、路地を出たときにはワープでもしたような驚き。同時に彼女のクルマに乗る前の私は、完全に新鮮な心持ちと共に新しい私になっていたと思います。ありがとう。

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2007年08月20日 11:29に投稿されたエントリーのページです。

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