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10月21日 満ちる

 着物道楽である。別名・着物バカ。どれほど着物に散財してきたかしれない。それはそれで楽しんだし、学ぶことも多々あります。人間ときには「バカ」といわれるほど何かに熱中するのも悪くない。ただふと、ある思いの前で立ち止まりました。私はたくさんの着物に恵まれてきたけれど、一体そのうちの何枚を本当に手に入れられただろうか。本当に自分のものにできただろうか…。

 ステキな女性と遭遇しました。紺色の地に黒い絣がキリリとして、白い衿は眩しいほどに潔い。腰は曲がっているのに、姿勢の良さを感じるのは何故か。気骨という骨が、彼女を支えているのでしょうか。

 電車の中でたまたま居合わせただけなのに、気付いたら声をかけていました。
「塩沢ですか。いきなりごめんなさい。あまりにお似合いでらしたので…」色合いや、シボの感じから、そう尋ねました。

「いえ、そんな上等なもんじゃございませんよ。買ったのは銀座ですがね、もう何十年も前のはなしです。たしか結城…。あぁ、結城ったって、結城地方で作ってるだけで、あの結城じゃない。すごく安すく求めたんですよ」その方はとても気さくにお話して下さいました。東京の人間だとすぐにわかる口調で。

 「もう80年以上も着物で暮らしてるとね、今さら洋服もどうしたものか分らないもんで」と、軽く会釈をして電車を降りられました。

 着物がその人を雄弁に語る。着物がその人になっている。あんなふうに着たい。あの方は本当に、あの着物を手に入れられたのだなと思いました。

 ものが溢れている世の中。いそがしく情報が飛び交い、人々は正体の知れない孤独を埋めるように道連れを求める。けれど、どれほどの何かを手に入れているのでしょう。

 欲しいのは豪勢なフルコースではない。「おいしいね」と笑いあえる一杯のうどんだったりするのです。         
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2008年10月21日 10:25に投稿されたエントリーのページです。

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